是川銀蔵・・・相場師一代(20)末恐ろしい男

是川銀蔵

銀蔵は野村銀行(後の大和銀行)に融資の話に出かけた。トタンを買ったのはいいが、資金の手当てが出来ていなかったからだ。広瀬という支店長に「明日、小切手を持って業者が窓口に現金を引き出し行きますので融資をお願いしたい」と切り出した。この後生涯の友となると銀蔵がいう広瀬支店長は「うちに預金残高はいくらあるので」と聞いたが、実際残高はほとんどなかった。しかし銀蔵がここに来た頃には東京が壊滅的な被害になっているのは伝わってきており、様々な物資の値段が急騰してきていた。銀蔵がトタンを集めた次第を話したが、広瀬支店長は腕組みをして「う~ん」と考え込んだ。

「あなたには絶対迷惑はかけません。明日には必ずトタン板や釘は暴騰して何倍にもなっています。融資を御願いします。」預金もないのに融資を頼む銀蔵の顔を広瀬支店長はじっと見ながら考えていた。「君の言うように東京が壊滅的被害をうけていなかったらどうするつもりなんだ」と銀蔵に聞くと、「横浜が壊滅しているのに、東京がしていないはずがありません」と返す。広瀬支店長はそれでもこう返した。「しかしだよ、僕が君に融資しないといったら、君はどうするつもりかね」

銀蔵は、「今後何倍にもなるのはわかっていますが、残念だが今入手したトタンや釘を安売りして、こちらの口座に入金して小切手の支払いをするつもりです。」そこまでの覚悟を見た広瀬支店長は「君は年はいくつかね」と聞いた。「26です」との銀蔵の回答に驚き「末恐ろしい男だな・・・」とつぶやき「わかった融資しよう。だがこんな大胆な事、今後二度としちゃいかんぞ」と釘を刺したのだった。

こうして銀蔵が支払いの手当てを終えた。翌日には1枚60銭で買ったトタン板5円にも暴騰していた。銀蔵は著書の中でこう言っている。「人に後ろ指刺されることをしたわけではない。人よりも一歩先を読んで行動した。商売の鉄則を守っただけだ」と。こうして銀蔵はそれまでの借金をすべて返しておつりが出るくらいの儲けを手に入れた。どうしようもないときに急にチャンスがくる人生が面白いとも銀蔵は著書で書いている。

だが良いこともあれば悪いことも急に来るのが人生だ。次回「是川銀蔵・・・相場師一代(21)大恐慌のあおり」乞うご期待!

たなぶ

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