銀蔵は12日後に強制送還になろうとしてしたが、村の中で1件だけ夜遅くまでランプの灯りがついている家があるのに気づく。近づいて覗いてみると、そこは主計室で少尉を中心に3,4人の兵隊が山ほど伝票を積み上げて、そろばんを弾いているのが見えた。しかし、そのそろばんを弾く手先はどうみても不慣れで、それを見て銀蔵は(これだ!)とひらめいた。
すぐに炊事場に取って返してコーヒーを入れて部屋に入り「毎日ご苦労様でございます。どうぞ、召し上がり下さい。」と近づいた。そして頃合いをみて「みなさんそろばんに難儀されているようですが、お手伝いしましょうか」と切り出した。それならやってみろということになり、銀蔵が伝票処理を始めると、兵隊たちがどよめいた。
「お前、じょうずだなあ」。銀蔵は好本商会にいるときに簿記そろばんを習得していたので、その速さと正確さに兵隊たちは感心したのだ。そして「お前、明日から炊事当番やらんでいい。ここへ来て事務係として働け」。こうして、銀蔵は日本軍の現地雇の軍属として採用されたのだ。
銀蔵は少尉ら3.4人が1日夜遅くまで掛かっていた伝票・帳簿処理を一人で半日もあれば片付けてしまう。兵隊たちにしてみれば、重宝な存在になった。もう遅くまで仕事をしなくてもよくなったのだから、当然だ。ここで銀蔵は次の船で強制送還されることを相談した。「心配しなくていい」と少尉はさっそく強制送還を取り消してくれた。銀蔵は正式に月給1円で採用されることになったのだ。
そして仕事を半日で終わらせてしまう銀蔵は、残りの半日で何か商売が出来ないかと考えるのだった。それは、また次回!
たなぶ
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