是川銀蔵・・・相場師一代(15)徴兵検査不合格

是川銀蔵

銀蔵が日本に帰ってきて半年がたった大正6年5月頃。銀蔵はまだ商売を諦めてはいなかったが、彼に徴兵検査の時期がやってきていた。当時は自分の家から兵隊が出れば赤飯を炊いて近所に配るくらいのお祝いだった。御国の為に尽くすのが、当時の国民常識だった。銀蔵の両親も銀蔵が兵隊にとられれば、海外に行くのを諦めるだろうと思っていた。

しかし、銀蔵の考えは違った。「自分が兵隊に行くのは国家の損失だ」と本気で考えていた。軍隊になんか入りたくない。そう考えた銀蔵は、まず軍医を止めた医者がいたので自分を見てもらうことにした。「先生が懲役検査員だったはわしは、甲乙丙のどれになる?」の検査結果に別れており甲が採用で甲だけで定員が埋まらなかった場合、乙から選ばれる。丙は不合格で、当時は不名誉な事とされていた。

よし診てやろうと銀蔵の体を調べる医者がいうには「君はバリバリの甲合格だ。今すぐ兵隊として戦場で働けるぞ!」銀蔵に喜べとばかりに言ったが、銀蔵の顔色は晴れない。「実は・・・」と銀蔵は兵隊に行きたくなく、自分は商売をしたいのだと告げた。そして「なんとか兵役を逃れる方法を教えてくれ」と頼む銀蔵を、最初は怪訝に思っていた医者も最後は銀蔵の熱意を汲んでくれた。

「それなら・・・」と兵役逃れのレクチャーが始まる。「どこか君の縁者の住むところで、しかも非常に健康な人間が揃っている地域はないか」と医者は聞いてきた。腕を組んで銀蔵は考えたが一つ当てがあった「従兄弟が住んでいる岡山県の片上という漁村は漁師ばかりで、若いもんは非常に丈夫だ。」よし、調べてやると医者の調査があり、「君はそこに寄留せい」と連絡が来た。

確かにその漁村は丈夫な若者が揃っており、毎年甲合格者が多く採用予定数を大きく上回るので、甲合格の3分の1は兵役を免除になっていたのがわかった。寄留しているものは本籍地の兵役が終わってから検査が行われる。「君が丈夫といっても漁師に比べたら筋肉も骨格も違うので、君は乙合格になるだろう。もし本籍地で定員が足りなくても君が採用になることはないだろう」

銀蔵は徴兵検査前に分家の手続きをとり、岡山県片上に寄留した。寄留の際の町長の面接では「私は片上の伊部焼の陶器は欧米に輸出すれば相当儲かる目を付けているのです。その事業化のために来ました。」そんな嘘っぱちに町長は「それはご苦労様です。ここは仕事が無いところなので若者に仕事が無くて困っています。ぜひ頑張って下さい。」そんな声援ももらったが、兵役逃れのために来ているなんて、夢にも思わなかったろう。

銀蔵は狙い通り乙の2番に選ばれて兵役を逃れることが出来た。銀蔵は元軍医とグルになり、兵役逃れを見事に成功されたのだ。著書の中で、彼は自分の事を「不届きもの」と述べている。銀蔵の頭には「南方に行って商売で儲けたい」との野心が燃えていた。

両親は銀蔵が南方に行ってまた無茶をするのではないかと心配し、親戚の工場経営を押し付ける事にするのだが・・・次回、「是川銀蔵・・・相場師一代(16)退屈な仕事」乞うご期待!


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