昭和7年(1932年)満州事変があり、日本は清朝最後の皇帝溥儀を執政として満州国を建国した。日本が軍事色を強めていく時代になっていた。太平洋戦争に向かい、日本は徐々に進んでいたと銀蔵は書いている。そして昭和8年の株式市場は、そういった世界情勢を読み込んでか年初から三月にかけて急落していた。著書で銀蔵は「売りつなぎ圧迫による自然反落で」と下落の様子を書いている。是川銀蔵がつなぎについての認識と理解があった証拠である。ツナギをする私(たなぶ)にとって嬉しい発見だった。
銀蔵は昭和6年の9月にイギリスが当時の世界基本通貨体制であった金本位制を停止することを、数日前に的中させたと書いている。そして同様にアメリカが金本位制度を停止するだろうとの判断を銀蔵はしたというのだ。どうしてそう判断したのかも書いている。NY連邦準備銀行の紙幣発行高と預金残高、金の保有高を毎週末確認した。そして当時のアメリカの法律で紙幣発行の40%分の金を保有しなくてはならず、維持できなければ金本位制を停止すると決められていたのだ。銀蔵は毎週この数字を追っていたいのだ。
そして正貨準備が40.5%まで低下しておりアメリカが金本位制を停止すると読んだのだ。銀蔵はニューヨークの為替相場と連銀も注しており「今週の水曜日には必ず正貨準備比率が40%を割る。アメリカは直ちに金本位制度を停止するはずだ」と確信した。そして自分の手持ち株をすべて売却するよう証券会社に連絡した。もちろん証券会社からは「是川さん、あんたそんなに売って大丈夫か、何が原因なんだ?」と探りも来た。
相手は金田証券の福田という人物だったが銀蔵は、「あんたの株も一緒に売っとけ、明後日アメリカから金本位制停止のニュースが入ってくる。そうなったら東京も大阪も立ち会い停止じゃからな。」だが福田は「さあ・・・どうじゃろ。」と半信半疑で動く気配がない。そして銀蔵は大きな空売りを仕掛けた。「こんな無茶して大丈夫か?」と福田は心配したが銀蔵は「大丈夫だ。君のところが一番手数料で儲かるはずだ」といったという。
銀蔵の予想通りにアメリカの金本制度停止のニュースが相場を大きく崩していく。「これで一儲けだ」とほくそ笑む銀蔵に最悪の話が回ってくる。次回「是川銀蔵・相場師一代(27)・・・億万城者になりそこねる」乞うご期待!
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