銀蔵は昭和8年に憲兵隊に捕まった事がある。講演先で満州事変について話したのだが、どうしても満州事変勃発が腑に落ちないと話したからだ。銀蔵は中国にいた時の経験から中国軍に詳しかった。満州事変が夜に軍事行動を起こすのは珍しい。そもそも夜は8時か9時には就寝で武器はすべて武器庫に入れる決まりだったそうだ。それはそうしないと武器を盗んで売るものが後を絶たなかった為で、軍閥の最大の悩みだった。だから事件が夜半に起こったという話を聞いて妙だなと思ったのだという。また満鉄道隊の発表だけで目撃者もおらず、新聞写真の中国人は全員丸腰だったのも銀蔵には解せなかった。それを講演で言ったのだ。
「是川が日本軍を誹謗している」と誰かが注進したのだろう、銀蔵の家に突然憲兵隊が現れた。当時の憲兵隊は拷問もするし留置中に人が死ぬこともある。だが、銀蔵は臆さず「事実だから言ったんだ、あんたらは中国軍をしているのか」と反論した。しかし、憲兵隊は仲間はいるのかななど、銀蔵をスパイ扱いする。取り調べは熱を帯びて、銀蔵の身も危なくなる。しかし、銀蔵も手を打っていた。家を出る時に小学校の恩師で衆議院議員の佐々井一晁のところに連絡をさせていたのだ。佐々井は軍の大物とも親しい右翼の大物だった。
東京の憲兵隊本部から大阪の憲兵隊に連絡が入る。「是川を拘束しちゃならん。彼の話を聞いて勉強しろ」本部の連絡に急に態度の変わる憲兵達。その後数時間にわたり、中国情勢いついて憲兵隊員らに講義をすることになったのだ。帰りは憲兵隊の隊長はじめが幹部が玄関まで見送ってくれたのだという。その後、銀蔵が東京に講演するときは、特高の刑事が一緒についてきて電車に乗り、静岡まで来ると東京の警視庁から来た刑事に引き継がれて、東京駅には憲兵隊が待っているという事になった。
憲兵隊が銀蔵の発言を気にしているのもあるが、講演会では特高と憲兵隊が速記をとっているのだという。講演以外でも事務所にも若い憲兵隊員から幹部まで時々顔を出していたという。そして銀蔵は彼らに、「米英との決戦が近づいている。しかし、このままでは日本は破滅する。なんとしても回避しなくてはならない」と説いたという。銀蔵は海外主要国の財政や予算を分析して、想像もできない危機が近づいている事に気付いたのだ。
銀蔵は各国の予算を分析する事で世界大戦が近い事を読んだ。次回「是川銀蔵・相場師一代(29)・・・第2次世界大戦を予想する」乞うご期待!
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